使途不明金の裁判例
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使途不明金の裁判例1 東京地裁令和2年10月22日

被相続人が2回脳梗塞を発症し被告がその方の通帳等を管理していた事例でした。
裁判例を読んだ中で気になるフレーズは以下の通りでした。

 

出金を行ったのは被告であるといえること

「本訴請求原因である不当利得の発生原因事実(被相続人の損失、被告の利得、因果関係、法律上の原因の欠如)は、全て原告が主張立証責任を負う建前である、被相続人の被告が被相続人の亡Aと同居して生活を共にする家族関係であったという事案の特性を踏まえると、同居する高齢の母親が自身の口座から出金した多額の現金をどのような用途で費消していたのかは、同居人である被告においても、高額の支出を中心に相当程度把握できる部分があるのが通常と考えられるし、特に被告自身が亡Aの預貯金の通帳・印鑑やキャッシュカードを管理していた実態が存在する場合には、より一層出金した現金の使途の状況を把握できてしかるべき立場にあると言える。」「1月当りの平均的な費消額を試算してみると…1月当り36万円以上の現金を費消している計算になる。すなわち、…この約4年5か月間に、上記使途が明確な多額の支出以外にも、亡Aが自身の預貯金を平均して毎月36万円以上のペースで費消し続けていたのでない限り、死亡時にわずか254万円余りの預貯金しか口座に残っていなかった顛末との整合性に重大な疑問が生じ得ることとなる。自宅を保有して子と同居する70代の高齢者が、特に豪華で派手な生活を送っていたわけではないにもかかわらず、このような異様に早いペースで現金の費消が進むことは、容易には理解し難い外形があると言わざるを得ず、この点は、亡Aと同居していた被告において、多額の預貯金の出金の経緯や使途に関する合理的な説明の必要性を高める事情になるというべきである。以上に掲げた事情を総合すると、被告が亡Aの預貯金を管理する立場にあったと認められる場合には、被告の側から出金の経緯や使途に関する相応の合理的な説明を伴う具体的な反証がない限り、被告が当該出金額を法律上の原因なく利得して亡Aに損失を与えたと推認するのが相当である。」
50万円単位の短期連続的な出金は、…比較的少額の単発の出金とは明らかに異質な出金行動の外形を呈しており、真に亡Aが特定の使途で多額の現金の調達を必要としていたのであれば、窓口でまとめて必要額を払い戻そうとするのが自然な発想と考えられることや、亡Aの日常的な生活等の支出は、上記(2)の出金で十分賄うことが可能であり、亡Aが更に追加で50万円を超える多額の現金を手元に置いておく必要性は乏しいことなどに鑑みると、本件で問題となる50万円単位の短期連続的な出金は、全て被告が行っていたと認めるのが相当である。」
「2回目の脳梗塞後は身体的機能が著しく低下して、単独での外出行動がもはや不可能となり、日常生活でも同居者や介護職員の介助に頼らざるを得ない場面が多かったのであるから、上記期間の半分以上を占める入院生活中はもとより、退院して自宅に戻っていた期間においても、亡Aの金銭の出納管理については、本件各口座の通帳等の管理も含め、全面的に同居家族の被告に委ねていたと考えるのが合理的であり、…の出金を行った者は、全て被告と認めるのが相当である。」

 

その出金が①被相続人の生活に必要か、②被相続人の承諾があったかの反証は被告が行わなければならない

「判断枠組み 被告が本件各口座の預貯金を管理する立場にあったと認められるから、被告の側から出金の経緯や使途に関する相応の合理的な説明を伴う具体的な反証がない限り、被告が当該出金額を法律上の原因なく利得して亡Aに損失を与えたと推認すべきことになる。…亡Aの生活のために実際に支払を要したと合理的に判断出来る費用と、亡Aが個別的に同意を与えていたと合理的に判断出来る支出を控除した金額を被告の不当利得額と推認する手法で検討するのが相当である。」
「葬儀費用関係は、相続開始後に発生した債務であり、相続財産に関する費用ではなく、当然に相続財産からの支出が許容されるものではないから、死者が予め自らの葬儀に関する契約を締結していたか、死者の相続人や関係者の間で葬儀関係費用の負担について明示又は黙示の合意が成立していた等の特段の事情がない限り、葬儀等の儀式を主催する者(喪主)がこれを負担すべきものと解するのが相当である。」「亡Aの相続財産から本来は喪主である被告が負担すべき葬儀関係費用を賄うことについてまで同意していたとはいえないし、自身の葬儀関係費用の支出処理に関する亡Aの生前の承諾があったとも認められない」

不当利得返還請求権が認められるには、原告が立証責任を負いますが、被告が被相続人の預貯金を管理する立場である以上それは不可能です。そのために、被告の側からの合理的な反証が必要だとしました。
そしてその反証とは、被相続人の生活の為に必要だったか、それとも個別的に同意をしていたかの反証であり、被告がこれらを反証できなければ、不当利得返還請求権が認められるというものです。

使途不明金の裁判例2 東京地裁平成18年10月25日

この裁判例2も裁判例1と同様に、「これらの支出が被相続人の生活に必要な経費であると認めるに足りる証拠はなく、また、その費用を本件各預金から出すことについて、被相続人の同意を得たことを認めるに足りる証拠はないうえ、これら寄付に対する領収書も被告宛に出されていることからすれば、これらの各引出行為も、法律上の原因なくしてなされたものというべきである。」と判断しています。

まとめ

これらの裁判例からは以下の通りまとめることができます。

 

出金を行ったのは被告であるといえること

 ATMで上限50万円を何回も集中して下ろす行為は、被相続人が自分で出金を行ったとは認められない。
 被相続人が介護施設に入って一人では行動できない場合は、被相続人が自分で出金を行ったとはいえない。

その出金が①被相続人の生活に必要か、②被相続人の承諾があったかの反証は被告が行わなければならない

 反証には証拠が必要です。

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