不動産・住宅ローンの財産分与の判断の基準時
離婚に伴う財産分与の精算分配の基準時について調査検討しました。

財産分与の判断の基準時などについて(自宅・住宅ローン)

自宅を含めた不動産の財産分与において、その不動産の時価を別居時にみるのかそれとも分与時(裁判時・審判時)にみるのかという疑問と、住宅ローンの残額を別居時・分与時のいずれにみるのかという疑問があります。この疑問点については、他のサイトにも言及されており、私が見る限りは分与時(現在)を基準にすると記載されているものが多いですが、一概にそういえないこともあります。これについては、後でくわしく文献を参照しながらコメントします。
また、住宅ローンの残額とは、元本のみなのか、それとも利息や保証金を含むのかという疑問もあります。他のサイトではあまり疑問視されていないことも多いですが、殆どが後者と考えているようにも読めます。
今回の記事では、上記の点を検討してみましたので、参考になればとおもいます。

 

まず、住宅ローンのように清算の対象となる共同財産の形成に伴う債務が残存している場合には、これを清算に当たり共同財産から控除する必要があります(福岡家審昭和44・3・13家月21巻8号98頁)。

 

清算的財産分与判断の基準時について

別居時説と裁判時説にわかれております。その根拠は下記の通りになっております。
別居時説は、清算の対象は夫婦がその協力によって得た財産であるので、夫婦の協力が終了する別居時の財産が基準となるべきである。
裁判時説は、清算が離婚の効果としてなされることから、原則通り裁判時を基準とするのが相当であり、別居後の財産の増減やそれに対する寄与度は「一切の事情」として考慮すれば足りるととする。
大津千明弁護士著「財産分与の対象財産の範囲と判断の基準時」(判タ747号132頁)によると、「しかし、判断の基準時と言っても財産分与の場合は、絶対的な時的限界が議論されているのではなく、対象財産を決めるための一応の判断時点に過ぎない。したがって、一律に別居時ないし裁判時と固定するのではなく、双方の協力によって得られた財産が対象であることから、協力関係の終了した別居時を一応の時点とし、公平の見地からその後の裁判時までの変動の内容をも考慮して妥当な解決を図るべきであろう」としています。
渡邉雅道裁判官(「財産分与の対象財産の範囲と判断の基準時」判タ1100号17頁)によると、「私見によれば、夫婦の財産形成の家庭や協力内容には様々な態様が考えられる。例えば、婚姻中、妻が主として行っていた旅館営業を一方的に放棄して家出・別居した場合には、別居によって協力関係が無くなったと言えるが、一般勤労者世帯において、別居中、夫が住宅ローンを返済し、妻が未成年者を養育している場合には、別居中も未だ協力関係にあるといえるであろう。このように対象財産や婚姻中及び別居中の夫婦の生活状況等を個別に考慮して基準時を定めざるを得ない問題であると思われる。」

 

後者の文献を見ると、自宅不動産の財産分与の多くのケースは分与時説・裁判時説を取ることが多いのかと思われます。

 

裁判例の流れ
別居時説

・長崎家佐世保支部審昭和43・1・21
・東京家裁審昭和46・1・21
など

離婚時説、裁判時説

・神戸家裁審昭和41.7.16
・大阪高決昭和49.8.5
・大阪地裁昭和62.11.16
など

 

 

住宅ローンの元本のみか、利息や保証料も含むのか

この問題に関連する裁判例として名古屋高裁金沢支部の判決がありまして、清算の方法を述べた裁判例ですが、利息や保証料は含まないようにも読めます。私としては、消極財産として利息や保証料も含まれるので、不動産の時価(積極財産)の清算に当たって考慮するのが公平だと考えます。
惣脇美奈子裁判官もこの点を言及しております。

惣脇美奈子裁判官(判タ1100・19頁)によると、「一つには、不動産の時価から残債務額を差し引く方法である。もう一つには、それまで支払った返済分から、元本に充当された分の合計額が不動産の実質的価値であるとする方法がある(名古屋高裁金沢支部昭和60・9.5家月38巻4号76頁は、元金充当分の合計に寄与割合を考え、不動産を取得しない側に対する調整金の支払いを命じた。この事例では、当事者から離婚時までの債務返済分の合計を財産分与の対象として考え、不動産を取得しない側は、この返済分合計の何割かを取得できるはずであるとの考えが主張された。この考え方は、先の名古屋高裁金沢支部の決定では返済分のうち利息分は借入を行うための経費相当分であり、消費されているもので、これを財産分与の対象として考えるのは相当ではないとされている。)。私見では、積極財産の精算に当たって消極財産の精算を行うことが公平に合致するという考え方から一つ目の不動産時価から残債務額を差し引く方法が住宅ローンの清算を行うという趣旨に最も合うように思われる。」

 

余談

本屋さんに行くと「離婚・離縁事件実務マニュアル 東京弁護士会法友全期会家族法研究会 編」という書籍があり、私も購入しているが、「分与時点における不動産の時価からローンの残元金を控除する方法で、清算の対象としての不動産価格を決定しているのが一般的である」と記載されています。しかし、かかる記載の原典となる「財産分与の方法 大津千明著」を確認しても「残元金」とは記載しておらず、むしろ「一般には当該不動産の時価から、残っている債務額を控除した残額を分与の対象とするのが通常と考えられる」「最近のように土地の価格の値上がりが激しい場合、それまでに支払った借入金の元本充当額と当該不動産の価値はむしろ一致しないのが通常と考えられる。」と記載しています。とすれば、離婚・離縁事件実務マニュアルの記載は引用ミスの可能性が高いのではないかと考えております。

 

結論として、自宅不動産で住宅ローン付きの場合は少なくとも、上記の大津千明先生が「財産分与の方法」判タ747・138頁で記載するとおり、「割賦弁済が始まったばかりの場合はともかく、一般には分与時点の不動産の時価から残存借入金の現在値を控除するのが相当であろう」の一言に尽きるのではないかと思います。
ただし、私は、自宅ではなく投資用マンション等の事案は、他の文献を踏まえるとまた主張や方法を事案によって変えることはできるのかもしれないと考えています。

馬場総合法律事務所

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